コラム
Column
ものづくりのソリューションを創造する大阪の中小企業
日本のものづくり企業は、「失われた30年」の間にその数を半減させました。しかし、各事業所の付加価値額はむしろ増加しています※1。これは、厳しい市場競争下においても、ものづくり企業が技術の研鑽を怠らずに、高い顧客価値を創出してきたことを示唆します。とりわけ大阪のものづくり企業には、ニッチ分野で磨き上げた技術や知恵を駆使し、誰も思いつかなかった方法で不可能を可能にしてきた事例が少なくありません。本稿では、このようなものづくりの力を活かして多様なソリューションを提供してきた「匠企業」のエピソードを紹介します。
※1 経済産業省「平成2年(1990年)工業統計調査」及び、総務省「令和3年(2021年)経済センサス活動調査」を用いて、従業者300人未満の製造業(4人以下除く)の事業所当たり付加価値額をそれぞれ算出したところ、1990年は153百万円のところ、2021年は304百万円と倍増している。
チャレンジが仕事
第一大宮株式会社 代表取締役 松岡 貴峰
プラスチック段ボール(プラダン)などの包装資材を手がける第一大宮は、多くの企業にとって悩みの種である物流分野で、数々の改善策を提供してきました。その実現のため同社は、差別化が難しいといわれるプラダン業界で、数々の独自製品を開発してきました。その結果、保有する特許は30件を超えるなど、異彩を放っています。
エピソード
プラダンは紙の段ボールに比べ軽量で強いため、いろんな業界で利用されてきました。ただ断面が中空構造になっているため、虫などの異物が混入することがあります。また水洗いすると水が残ってカビが生えることもあるため再利用が難しく、衛生面に厳しい医療や食品では使われてこなかったんです。そこで私たちは、断面に隙間のない低発泡ポリプロピレン(PP)シートを箱状にした「ドゥセラーボックス」を開発しました。虫が混入する心配がなく、水洗いもできるので食品や医療品など、従来のプラダンを使ってこなかった業界でも利用していただいています。
また折りたたみコンテナボックスも、いろんな業界で使われていますが、一般的なタイプは金型を使った射出成型品なので、どうしてもサイズが定形になり、軽量化にも限界がありました。そこで当社は、超軽量の中空ハニカムシートを用いた折りたたみコンテナボックス「FC-3」を開発しました。一枚のシートから独自の熱罫線加工により組み立てるのでフリーサイズかつ小ロットで生産できます。あるアパレルメーカーでは、女性や高齢者の採用が増えてきたので、現場作業の負担軽減が課題になっていました。そこでFC-3を提案したところ、採用いただくことになりました。以前は内容物よりもケースの方が重いこともあったようですが、ケースは大幅に軽量化でき、また用途に応じてサイズも自由に選べるので、運搬も効率的に行えるようになったと高い評価をいただいています。
このほかにも、表面に特殊なシートを張り付けることで強度を高め、また静電気を抑制するなど機能を付加する工夫もしており、半導体関連などの電子部品分野でもご利用いただいています。
ソリューション創造の源泉
私は日ごろから「仕事とはチャレンジすること」と社内で言ってきました。日々の業務は当然重要なんですが、新しいことに取り組むことも重要な仕事だと考えています。例えば、素材としての低発泡PPシートは以前からありましたが、箱にするための罫線(折り目)を付ける事ができないと考えられてきました。我々も最初は無理だと思っていましたが、まずはチャレンジという気持ちで、かつて紙の段ボールで使っていた罫線用プレス機を持ち出し、試行錯誤の末に、世界で初めて低発泡PPで箱を作れるようになりました。取引先とか展示会に来る方は新しいものを求めています。それに応えるために新しいものを作ることを忘れないようにしています。開発のヒントはお客さんがくれます。お客さんから言われた時は、「ちょっと無理じゃないか」と言いながらもチャレンジし続けることで、答えを見つけてきました。


難しいことほど楽しめる
境川工業株式会社 代表取締役社長 眞田 博之(写真1枚目)、取締役技術部長 西村 直樹(写真2枚目)
創業70年以上の歴史を持つ老舗の熱交換器専門メーカーである境川工業は、フィン・チューブ式熱交換器で業界トップのシェアを誇ります。その強さの源には、顧客から寄せられる難解な相談に真摯に向き合い、長年培ってきた「熱のコントロール」に関する技術とノウハウを生かして最適なソリューションを提供してきた姿勢があります。
エピソード
当社はこれまで、顧客からのどんな問い合わせに対しても「うちじゃない」とは言わずに、一度は聞いて、それに対して提案することを心がけてきました。それは「熱」の専業メーカーとしての自負と新たな可能性に出会うチャンスと考えているためです。例えば、顧客から不具合が生じたと言われて、調べてみると熱交換器とは関係のない周辺設備に問題があったという場合でも、その解決のために提案することもあります。最近は、web経由で、お付き合いのないところからも相談が来るようになりました。特に研究部門の相談が増えているように思います。内容は、そもそも熱交換の話ではないこともありますが、一度はお聞きするようにしています。こうした姿勢が新たなビジネスチャンスにつながったこともあります。例えば4年ほど前に、大手建設会社から突然連絡がありました。これまで取引のない大企業で、業界にも馴染がなかったため驚きましたが、まずは話を聞いてみることにしました。詳しく聞いてみると、想像もしていなかった内容で不安もありました。ですが課題が「熱のコントロール」だと聞いて、当社で出来る事はないか考えてみることにしました。その後、何度か対話を重ねるうちに、先方からそれを試してみたいという返事がきました。それからは本格的に研究に参加することになり、正確な実証データやシミュレーション、モックを使った検証など、求めに応じて様々なテストを繰り返しました。そして一定の成果が出たところで、システムの一部に当社製品が採用され、研究も次のステージに進みました。まだまだ改善の余地はありますが、技術的には研究が一定の水準に達したため、当社を含め共同での特許出願に至りました。
ソリューション創造の源泉
熱交換器は工場の設備に組み込まれていることが多いので、熱交換について詳しく知っている方も限られています。当然、熱交換のことは顧客よりも専業メーカーである我々の方が詳しいという自負はあります。そのため顧客からの相談にはいつも全力で応えるようにしてきました。「とりあえずやってみよう」という姿勢が当社にはあると思います。従業員にもその考えは浸透していて、難しい相談がきたときも、積極的に提案を出し、取り組んでいます。収益を度外視することはありませんが、新たな課題に取り組むことに楽しみや、やりがいを感じてくれているのでしょう。



他社が嫌がることが得意分野
株式会社エナテック 取締役 榎並 幹也
エナテックは、重量があり複雑な形状をした鋳物という他社が嫌がる加工に、あえてこだわり続けてきました。さらに当社は、ものづくりの豊富な知識とノウハウを活かし、作業現場で生じる悩みを解決する装置事業にも参入しています。そして今、世界が注目する次世代半導体に関連するオンリーワン技術の開発に取り組んでいます。
エピソード
今の主力はエンジンの排気系部品など鋳物の精密加工です。一般的に鋳物は公差のズレが大きく、精密加工には手間がかかります。特に複雑な形状の排気系部品は、加工するために固定することさえ一苦労で、自動化のハードルは非常に高いです。ですが戦後から鋳物精密加工を続けてきた当社には、長期にわたり蓄積してきた知識やノウハウがあります。それらを活かして、現場視点から作業負担を軽減するアイデアや、それを実現するための治具を自社開発することで、自動化や省力化を実践してきました。これまで、ある製品の作業時間を同業他社の4分の1まで短縮したり、前工程である鋳造を含めた改善によりコストを半減させたりした実績があります。こうした改善策は取引先にも提案し、生産性向上に貢献してきました。このほかにも、ある大手企業から、廃業した協力先の代わりを探していると相談がきたことがありました。詳しく聞いてみると、一般的には難加工とされる複雑形状の鋳物製品で、すでに複数社に断られていた案件でした。しかし、当社の治具設計能力と量産加工能力を活かせば、特別難しい加工ではなかったため、この製品の受注を引き受けることにしました。
また当社は、こうしたものづくり現場での改善の知識やノウハウを活かし、別事業として産業用装置の開発・製造を行なっています。例えば、プレス工程では、パーツをつなぐ端材を手作業で処理しなくてはならず、長年の課題とされてきました。当社はここに目を付け、この工程を自動化する装置を開発しました。ある現場では1ラインで3人が手作業で製品を端材から取り外していましたが、装置導入後は、次工程までの待機時間を使って自動処理できるようになりました。
今、当社が最も力を入れているのが、世界初となる基板エッジコーティング装置です。これはプリント基板の端面に液剤を塗布する装置で、既に国内外の大手電子メーカーに導入いただいています。今挑戦しているのは、AI向け半導体等において次世代基板として注目されているガラス基板用の装置です。液剤塗布は1ミクロン単位でコントロールする必要がありますが、この端面を安定してコーティングできる装置を実用化しているのは、現時点で当社だけです。まだ開発過程ですが、既に世界の大手半導体メーカーから引き合いがきています。
ソリューション創造の源泉
社内には研究開発や改善にチャレンジする文化があり、それが、これまでやってきた治具の開発や装置開発などの取組につながってきました。この文化があったからこそ、他社が嫌がることをむしろ得意分野とする今の状況が生まれたのだと思います。例えば、当社はこれまで、利益を3等分し、内部留保と従業員への還元、そして研究開発費に配分してきました。また従業員には資格試験は全額補助しており、それ以外に社内検定を設けて合格すれば金一封を渡すなど、学ぶことを奨励してきました。こうしたことも当社が研究開発や従業員の学びを重視する企業であることの全社的な共有につながっていると考えています。今後も、チャレンジする人をしっかりと評価し、背中を押せるような組織作りを進め、失敗を恐れることなく、学びとして次に生かせる企業を目指していきます。


ここまで紹介してきた匠企業には、いくつかの共通した特徴があります。
1.旺盛なチャレンジ精神
いずれの企業も、他社が敬遠する難題や不可能と思われる課題に直面した時に、積極的にチャレンジすることを選択し、むしろそれを楽しむかのように解決策を探っていました。こうした姿勢が、独自の発想を生み出す原動力になっています。
2.サプライチェーンにおける自社の役割へのプライド
匠企業は、自社が担う役割に強い自負を持っています。相手が大企業であろうとも、その分野では、自分たちが一番だというプライドを持って課題解決にあたっていました。それは積み上げてきた実績に基づく揺るぎないもので、だからこそ思い切った提案に繋がっていました。
3.サステナビリティへの真摯な取り組み
地球環境問題への対応がすべての企業の必須課題となる中、匠企業は取引先の要望に応えるだけでなく、未解決の社会課題にも、ものづくりの力で果敢にチャレンジしています。持続可能な社会の実現に向けて、答えを探し続けることに努力を惜しまない企業です。
匠企業は、特定のニッチ分野で卓越した技術力と独自の創造力を発揮し、強い存在感を放っています。しかしニッチ分野であるがゆえに、その実力は限られた取引先などにしか伝わりにくいという課題も抱えています。
大阪府では、こうした匠企業を広く知っていただくために、本サイトにて匠企業各社の紹介ページを用意しています。さらに詳しく知りたい場合は、「企業を探す」からご確認ください。